
トイレというタブーを社会的シナジー効果に変えるために
世界の数百万人が影響を受けているとされる劣悪な衛生環境。その改善方法として、トイレを議題の中心に、注目の話題にすること、それを「ミスター・トイレ」ことWorld Toilet Organizationの創立者ジャック・シムは提唱しています。
東京渋谷区の公園に登場した「透明トイレ」が、ソーシャルメディア上のトレンドとなったのは記憶に新しいところ。「日本のトイレ文化は世界中で最も優れている」とジャックは言います。一方で、暗く、汚く、臭くて怖いという公衆トイレのイメージは、他国同様、日本でも根強く残っています。そこでジャックが海外PRアドバイザーとして関わる日本財団が取り組む「The Tokyo Toilet」プロジェクトは公衆トイレの負のイメージを払拭し、より安全でアクセスしやすいものとするために17の新しい公衆トイレをデザイン。渋谷の透明トイレはそのうちの一つでした。
ジャックは奇抜なメディア露出戦略を展開しています。トイレに関連する仮装をしたり、あるときは巨大なトイレ(の模型)を国連本部前に設置しました。これらのパフォーマンスは全て、衛生環境の改善を通して、世界をより安全な場所にするためです。話すことが躊躇われるタブーな話題であるトイレを、ホットで話しやすいトピックに変える、「Poop(プープ、うんち)・カルチャー」を「Pop(ポップ)・カルチャー」へと変える、それがジャックが自らに課したミッションです。
2001年には略称が世界貿易機関WTOと同じ「世界トイレ機構(the World Toilet Organization / WTO)」を立ち上げ、メディアのスポットライトをトイレに当てることに成功。さらに自身の活動を追った『ミスタートイレ:世界No.2の男 (Mr. Toilet: The World's #2 Man)』(*#2とは英語で排便の意味)というドキュメンタリーにも出演しました。
政治と人々を結びつける
「世界人口の半数以上、42億人以上の人々は劣悪な衛生環境下に置かれており、非衛生的な生活環境で安全な飲料水にアクセスできないために年間2万9千700人以上(毎日800人以上)の5歳以下の子供達が下痢性疾患で亡くなっています。」
トイレの設備が無く、野外で排泄せざるを得ない環境下では、衛生確保が難しく、病気の拡散を防ぐことが容易ではありません。そうした国において、地方自治体や住民が自ら問題解決できるよう、ジャックのWTOは支援を行っています。トイレを政策の最優先課題に位置付け、トイレ環境の改善が生活の質の向上に密接に関係していることを理解してもらう上で、教育とアドボカシーがとても重要な役割を担っています。
“ポップ・カルチャー”と政治と人々の間にユニークなシナジー効果を生み出すジャックの取り組みは、机上の空論に終わらせない、実際の変化を生み出す効果的な方法であることは事あるごとに証明されてきました。「衛生関連の話題はメディアを惹きつけ、メディアに注目されることで政治家の注意を引くことにつながります」とジャックは説明します。「政治家が選挙に勝てば、もちろん、彼らは公約を実現しなければなりません。衛生関連の公約実現のための公共政策が施行され、そこに予算がつくことになるのです。」
原動力となる目的と情熱
ビジネスマンとして成功を収めたジャックは、実は社会にはもっと価値のある仕事があることに気がつきました。「誰かのために何かをすること、それは最も崇高な人生の価値です。もし他者に仕え、他者を助けることができるとしたら、そこから得られる喜びや満足感そのものが報酬となるのです。」衛生関連の課題をホットなトピックにする——ジャックの様々な努力を通して、何百万人もの人々が清潔で安全なトイレにアクセスできるようになりました。それでも、まだ多くの課題が残っています。「いつか、世界中の人々が、いつでも、どこでも、下水設備の整った清潔なトイレにアクセスできるようになると信じています。」
ANA BLUE WINGのサポート
読者の皆さんもジャックの活動を支援することができます。ANAによる「BLUE WINGプログラム」は、革新的で実用的な方法で数百万人の生活を改善しようとするジャックのような「チェンジメーカー」を支援するものです。ANAではチェンジメーカーにフライト代を提供することで、世界各国で行われている彼らの活動を支えています。
「人々はオンライン上ではなし得ない信頼関係の構築を必要としています。彼らのもとへ行くことが重要なのです。ANAが提供してくれるフライトは、資金が限られている私たちのようなNGOの活動を継続するために、無くてはならないものなのです。」