
チェンジメーカーに聞く、チャレンジを成功させる秘訣。
新しいアイデアを実現しようとするときに待ち受けているさまざまな困難。それを最も実感しているのは、世界の社会問題の解決に挑むチェンジメーカー(社会起業家)ではないでしょうか。この記事では、ANA BLUE WINGが支援しているチェンジメーカーに、彼らがどのように難しいチャレンジに向き合い、どう乗り越えているのか、その秘訣をお聞きしました。この記事が、仕事や人生において新しい挑戦を試みる方々へ、困難に立ち向かう勇気やヒントとなって届くことを願っています。
今回は、「経済と環境が両立した循環型社会」を目指し、世界の資源問題の解決に取り組む岩元美智彦さんにお話を伺いました。
人も企業も「ワクワク」を共有することが循環型社会をみんなで作り出す原動力になる
ケミカルリサイクルという化学的な手法で「服から服へ」や「ペットボトルからペットボトルへ」といった水平リサイクルに取り組み、サステナブルな循環型社会の実現に一歩ずつ着実な歩みを進めるJEPLAN(旧:日本環境設計)の岩元美智彦さん。会社設立から15年、「今やっとスタート地点に立てた気がします」と語る岩元さんに、これまで歩んできた山あり谷ありの歴史とともに問題解決のための具体的なアクションや考え方を伺いました。
信念と意義を忘れなければ、人の言葉に惑わされない
世の中で生産される繊維の約5割強を占めるのは、石油を原料とするポリエステルです。そうしたポリエステルを含む世界のファッション産業から生み出されるごみの量は、年間約9200万トン。その多くは焼却あるいは埋め立て処分され、環境に与えるダメージは計り知れません。同じく石油から生まれる飲料用ペットボトルは、日本国内で同じ飲料用ペットボトルに再生されるのは平均20%弱であり、アパレルやプラスチック容器などにリサイクルされても、その後はやはり焼却もしくは埋め立て処分されています。つまり、限りある石油資源が消費され続けているという厳しい現実があるのです。地下資源の採掘は、資源自体の枯渇問題はもとより、CO2排出などによる環境破壊、資源の奪い合いによる紛争の発生など、深刻な社会課題に直結しています。これらを解決するには新たな地下資源の消費を止めること、リサイクルをインフラに組み込むこと、その両方を地球規模かつ急ピッチで進めることが不可欠です。あらゆるものが循環するサステナブルな社会を目標に、リサイクルの技術開発、企業や一般消費者への啓蒙活動等に長年取り組んでいるのがJEPLANの岩元美智彦さんです。
従来のポリエステルや飲料用ペットボトルのリサイクルには、品質の維持などに課題があり、再生回数にも限界がありました。そこで岩元さんは、「集めた資源を分子レベルに分解した上で不純物を取り除き再び素材に戻すことができれば、石油から作るものと同品質のものが何度でも繰り返し再生できるはずだ」と、ケミカルリサイクル技術を用いた水平リサイクルの構想を練り、経済と環境が両立する循環型社会の形成を目指しました。当初は周囲からなかなか理解を得られませんでしたが、岩元さんは「理論そのものは正しい。いつかは必ず実現できる」と信じ、ネガティブな声に耳を傾けることはありませんでした。JEPLANのメンバーと協力しながら、それぞれの役割、タスクに邁進し、約10年の歳月をかけてこれまでのリサイクルでは成し得なかった、独自のケミカルリサイクル技術BRING Technology™を使用したプラント建設を現実のものにしました。
新しい何かを始めようとする時に度々向けられる周囲からの冷ややかな反応。例えそれが心配や不安からくる気遣いの言葉であっても、可能性を遮るストッパーになる可能性は否定できません。岩元さんのように「地球環境と人類平和のために資源循環は必須である」という取り組むべき意義が見つかっていれば、そうした雑音にとらわれることなく、歩みを止めずに突き進んでいくことができるはずです。
具体的な形にして証明し、理解を得る
岩元さんは2007年にJEPLANを設立しましたが、設立当初は資本金120万円の小さな会社だったこともあり、見据える循環型社会という壮大なビジョンは、周囲から理解を得るのに大変な苦労がありました。前例がないもの、実際に見たことがないものを人はなかなか受け入れません。そこで岩元さんは、「言葉で伝えるには限界がある。とにかくやって具体的に実績を見せることが先決だ」と考えるに至ります。
現在では、ケミカルリサイクル技術を用いた工場を福岡県・北九州市と神奈川県・川崎市に稼働させていますが、川崎市にある工場は、ケミカルリサイクル技術でペットボトルの水平リサイクルを実現させる世界唯一の商用工場です。工場稼働によって思い描くものを具体化し、リサイクル活動を実感してもらうことで、JEPLANの技術、行動を起こす意味、さらには目指すビジョンまで、広く正しくスピーディに理解されるようになっていきました。それによってパートナー企業が増え、ケミカルリサイクルの意義と循環型社会の形成に向けた活動を、まさに推し進めている状況です。
「楽しい」がないと、正しいことでも人はついてこない
できるだけ多くの人に前向きな気持ちでリサイクル活動に加わってほしい―――岩元さんは、リサイクルを楽しくて格好いいものだと認知されるよう、JEPLANのリサイクルプラットフォーム「BRING™」のマーケティングも大事にしてきました。
「正しいを楽しく」というのは、岩元さんの言葉。資源を循環させるリサイクルは環境破壊を食い止め、紛争の火種を消すという意味において正しいことですが、正しいだけでは人の心はなかなか動かないものです。楽しいこと、ワクワクすることを織り交ぜていくことで、それをきっかけに一般消費者の方に「参加してみたい」と興味を持ってもらうのが第一歩。そして、その人の暮らしや価値観にリサイクルというものが根付き、その後もそれが当たり前のこととして続いていくようになれば、それを見た周囲の人々にも良い影響を与える可能性が広がります。近年では「回収ボックスに古着を持っていくのが習慣になった」、「リサイクル素材を使った商品だからこそ購入したい」など、個人の行動や価値観の変化が顕著になってきました。その変化の流れは、企業も同じです。現在は、日本はもちろん世界のトップ企業を含めた300社以上がJEPLANの仲間となり、正しい×楽しいをそれぞれの企業のやり方で具現化し、その企業を支持する消費者が「自分ごと」として楽しみながらリサイクルに関わるという相乗効果の構図ができています。
迷った時こそ進むべきは、より困難な道
※JEPLANが展開する洋服のブランド”BRING™”の恵比寿店
JEPLAN設立からしばらくは、参考になる事例がない中で時に迷いを抱えることもあったという岩元さん。「経済と環境が両立した循環型社会を作る」というブレない信念と「リサイクルの技術が循環型社会の実現に必要だからやり抜く」という強い意義を持ちながらも、結果が予測しづらいことに対しては迷い揺れることも多々ありました。ただし迷った時の選択の基本姿勢は、よりハードルが高い方を選ぶということ。「困難な方に舵を切ることで、スキルを養い、失敗も経験として蓄積していくことができたと考えています」。
そういった岩元さんのひるまない姿勢の背景には、お母さまからかけられた言葉「仕事をして自分のご飯を食べられるようになったら、そのさきは世のため、人のためになる生き方をしなさい」があります。例え困難が多くても、世の中の役に立ちたいという想いが根底にあるため、ロングスパンでリサイクル技術の確立を始め、高い目標を目指すことができたのでしょう。世界を相手にするスケール感の大きい事案も、身構えることなく、自然体で向き合うことができたのも深いところで他者を思いやるエンパシーがあったからに違いありません。
JEPLANでは、衣料品回収のプラットフォームであり、そして独自の技術でリサイクルされたサステナブル素材でつくられた洋服のブランド「BRING™」の販売もおこなっています。またペットボトルにおいては国内完全循環を目指す企業間コンソーシアムを設立し、業界の垣根を超えた循環システムの構築に向けて一歩を踏み出しました。
現在では、ケミカルリサイクルの唯一無二の技術が世界各国から注目され、今後、海外でのライセンス事業の展開も予定しています。JEPLANの独自のケミカルリサイクル技術が世界に広がることにより、資源循環が促進されれば、誰もが安心して暮らせる平和な循環型社会が実現する日もそう遠くないことでしょう。

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